長岡鉄男先生の書物に
書いてあることを再現できるか
この実験のレポートを読んでいただく前知識として長岡鉄男先生がスロート絞り率(スロート断面積)と空気室についてどのように考えておられたかを知っておく必要があるだろう。長岡鉄男のオリジナルスピーカー設計術①こんなスピーカー見たことないのP32、p33「スロートと空気室」全文を引用いたします。
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ホーンの入り口付近、一番狭い部分をスロートと呼ぶ。どこからどこまでをスロートと呼ぶかという厳密な定義はない。見た目でいかにも細い部分をスロートと呼ぶのであって、問題になるのはホーンの入り口の断面積(図82のS0)である。本格的なホーンのスロートは図84の実線のように曲線であり、K=1.1で、スロートの長さを30cmとするとS3=S0×1.1(3乗)=S0×1.331となり、断面積は33%増える。図84の実線のようになるのだが、これを直管で代用するときはどうするか。S0の直管でいくと狭すぎる。S3の直管でいくと広すぎる。そこで適当に中間をとって点線のような直菅とする。この時、スロート断面積はS0であるとして計算する。実際の直菅の断面積より小さめに見積もるのである。BHはいくら厳密に計算しても、計算どおりにはいかない。特に自作の場合はそうだ。大切なのは見た目である。見た目に美しく設計できればまず成功と考えてよい。
スロート断面積はユニットの実効面積の同等以下にとるのが基本。極端な話、スロート断面積が1/100だったらただの密閉箱に近づくし10倍だったらただの後面開放箱になってしまう。第一巨大なものになって部屋にはいらない。スロート面積を振動板面積で割ったものをスロート絞り率(SR)というが、明確な公式はなく、筆者の体験から割り出した次の式が一応の目安になるが、確定した公式ではない。
もう一つの目安としてSR=0.5~0.9という幅で抑えるという方法もある。 スロート絞り率が1.0以上だったらユニットはホーン直結になるが、1.0以下の場合は自動的に図78のような小型キャビネットが作られる。これを空気室と呼ぶ。空気室はコーンの前面の音に影響を与え、ホーンに対してはローパスフィルタとして働く。空気室が極端に小さく、しかも絞り率が小さいと(0.5以下)コーンに背圧がかかり、コーン前面からの低音放射が抑えられ、歪もふえる。一方、ホーン開口からは中高音の放射が増える。空気室が極端に大きいと、ホーンへのプレッシャーがかからず、単なる巨大密閉箱の動作になってしまう。空気室はコーン前面の音と、ホーンからの音のバランスを調整するネットワークの働きをもっており、図85のようにfxというクロスオーバー周波数をもつ。
フロントロードホーンでは空気室は小さい程よいとされる。大きいと高域を減衰してしまうからだ。BHではホーンで再生するのは低域であり、高域は減衰した方がよいので、空気室はある程度の容積をとる。どのくらいの容積をとるかはユニットのQ0とfxで決まってくる。例えば、ダイヤトーンP-610はQ0が0.7で、推奨エンクロージャーは65Lである。空気室を65Lとすれば密閉、あるいはバスレフに近い動作になる。ホーンにプレッシャーがかからないからである。空気室を6.5LとするとF0は140hz、Q0は1.3に上昇する。これだと140hzにピークが出てくる。もしQ0が0.25だったとすると上昇しても0.47なので問題がない。BHはQ0が低いユニットを使うのが前提となっておりP610のようなユニットは向いていないのである。ただ、あまり細かく追求してゆくと設計もできなくなってしまうので、体験から超シンプルにまとめた公式を紹介する。
Q0は前回のSR(スロート絞り率)で取り上げたが、SRでスロート断面積S0が決まる。
これだけでは目安がつかない場合もあるので、その時はVa=0.07a(2乗)~0.3a(2乗)という範囲を逸脱しないようにするというのもひとつの方法だ。fxはどのくらいがいいか。ユニットの口径、f特でも違ってくるが300hz以上にしないのが基本である。人の声の領域までホーンを効かせると聞きづらい音になるからだ。100hz以下まで下げてくるとホーンの必要性が薄れる。
ーーーーーーーーーーーーー引用ここまで
長岡鉄男先生のバックロードホーンを研究している人はこのページをおそらく何百回と読んでいるおなじみの箇所だと思います。
長岡鉄男式のバックロードはこのページの手順でゆくとバックロードのスローと断面積と空気室の容積は以下の手順で決定されるのが分かります。
①スロート絞り率(SR)はユニットのQ0(共振の鋭さ)から、SR=1/5Q0という式から求める。
②スロート絞り率に利用するユニットの実効断面積を乗じることでスロート断面積を求める。
③ユニットとホーンからでる音の交差点fx(クロスオーバー)を決める。ちなみに長岡鉄男先生のスピーカーは200hz前後の設定が最も多い。(各スピーカーについては長岡バックロード音道データ参照)
④スロート断面積とfxから空気室の容積が決定するVa=10S0/fx