8、まとめ
今回の実験を通じて本当にいろんなことが勉強になった。大変だったが本当にやってよかったと思っている。簡単にまとめると- フィンランドバーチ材はMDF材に対して中低音では非常に美しい豊かな響きをだし、超低域にたいしては箱を制振する能力に優れていることがわかった。高域部分へはそれほどどちらの材もそれほど影響がない。バーチ材の方が聴感上高域レベルが高く感じられるが、f特上には変化がなかった。
- 楽器別に見ると、ピアノ・ドラムなどの低域部分の楽器、低域の弦楽器、低域の木管楽器、金管楽器・人声の順にバーチの効果の高さを実感することができた。
- 材の響きをより明確に知るには、音量を10時ぐらいレベルまで上げて聴くとよい。ステレオの状態で聴くよりかモノラルで視聴する方が違いがはっきり分かるソースもあった。
- 今回の実験はMDFとフィンランドバーチの比較で、ほとんどの分野でフィンランドバーチの圧勝であったがMDFののメリットも多く見出すことができた。それは”味付けの少なさ”でこれは箱への味付けを極力抑える設計を狙うのであれば利用価値は12分にあり現在の市販スピーカーの大半がMDFなどのファイバーボードを利用している理由がよく分かった。
今回の実験も私の耳の主観を頼りにやったもので、f特以外は何一つ科学的データーを示せずじまいだった。しかし、材の響きという神秘の世界をデータ化したもの自体、私自身見たことがなく永遠に数値化はできないのかもしれない。(材の振動をモーダル解析で3次元表示したところで響きの良し悪しを客観的に示したことにはもちろんならない)さらに今回利用したMDF・フィンランドバーチとて元を正せば木であるわけだからから、もう一回同じ実験をしたらまた別の結果になることだって十分あり得る。
ただこのような些細な違いをひとまずおくとすると、自作派が何故ここまでバーチなどにこだわり、市販メーカーがMDFやパーチクルボードに固着するのかも理解できた気がする。それはつまるところ設計思想。機械的に反響のないものを目指せばやはりMDF⇒パーチクルボード⇒ハードボードという比重の重いものに向かい、響きを重視したら楽器材に使われるバーチ・スプルース・松などといった無垢を積層にした合板を使って響きをコントロールするということになるのだろう。
バーチ合板を自作スピーカー材として利用するのは上級者向きかもしれない。まず第一に値段がMDFの3倍以上すること、材自体の反り暴れがけっこうありこれは端がねやクランプで強固に固めないと隙間ができてしまう恐れがある、粘りの少ないバーチの場合木端面から木がぽろぽろかけることがある、などなど。さらに何が最大に難しいかというとこの響きを利用するエンクロの設計だろう。
MDFはかなり無難な材で決して悪い材だとは思わない。はっきり言って近年のラワン合板(シナ合板も)の質の悪さ・ばらつきを考えるとMDFのほうがはるかにメリットが大きい気がする。(ラワンにすばらしく良いものもまれにあるが・・・)長岡先生が本にラワン合板を指定している理由は過去のラワンは現在のものよりはるかに質が高く且つ安かったからではないか?(ちなみに近年はラワンの質が低下しているばかりでなく値段のほうも高くなっている。これは中国が五輪で大量の木材を世界中の市場からかっさらっているというのが木工業界ではよく言われているが真偽のほどはどうなんだろうか)
まあ今回の実験は本当に勉強になりこれからやっていきたい課題なども見えてきた。次回はもう少し簡単に材の響きの違いを分かるレポートをお伝えしたいです。今回は異常に時間がかかってしまいました。