3、エンクロージャーに適した材とは
前の項で述べた音の種類を整理してみると、スピーカーシステムからでる音は次の3つの音の総和である。
音A=ユニットからの直接放射音
音B=ユニットからの振動が伝わって響かせるエンクロージャーの響き残 響音(間接音の一つ)
音C=エンクロージャーの響きが反作用となり、ユニットの正確な振動を妨げるような振動
(音Bと音Cとは本質的に全く同じものなのだがここでは分けて考えてます。)
スピーカーを設計する上で、音Cが有害であるのは論を待たないであろう。音Cを良いものと認め、積極的に利用する考えもあっても別に悪くはないのだがそうなるとハイファイという考え方からは遠ざかってしまう。音Cは極力少なくしようという考え方はスピーカー設計の基本と考えるとして、ここでは音Cをいかに少なくできるかという観点で話を進めることにしよう。
音C(ユニットの振動を妨げる振動)を排除するにはまずユニットをしっかり固定・保持できなければならない。つまりある程度の強度・硬さ・重量が必要である物質である。しかし、強度が強く、硬さが半端ではなく、重量が異常に重ければそれだけでよいわけではない。鉄を例に考えてみよう。鉄は比重7.85とスピーカーに使われる一般的な合板と比べると10倍以上の比重があり大変な重さがあるが、スピーカーエンクロージャーとしては利用されない。何故かと言えば振動が止まらず、その反作用がユニットへ悪影響を与える。ではどのような材を使えばユニットの箱の振動を押さえることができるかというと「内部損失の高い物質」を使うということ。内部損失(内部摩擦)とはつまりは物質それ自体が振動を他のエネルギーに変える(ここでは熱エネルギー)ことで、内部損失が高い物質とは簡単に言えば振動を吸収しやすい物質といえばいいのだろうか。これをQ値が低い物質という。
スピーカーエンクロージャーに使われる材としては木材の他にダンボール、ゴム、コンクリート、ガラス、鉄などさまざまなものが考えられるが主流なのはやはり木材。これは木材の内部損失の高さ・扱いやすさ・経済的に低コストであるなどが主な理由です。ちなみにユニットの振動版にも内部損失が高いという理由で木を原材料にしたパルプが多く用いられる。